「自分で」と「ひとりで」
今日のテーマは「自分」。
「自分=myself」必ずしもこうではありません。自分は myself, yourself, himself, herself 何にでもなり得ます。つまり、文の主語に合わせて、「自分」が示す人は変わるのです。
私は自分でこのバッグを作った。:自分=私
あなたは自分で着物が着られる?:自分=あなた
彼は自分で何もしないで、人にやらせる。:自分=彼
そして、会話の流れから「自分」がだれのことか、理解する必要もあります。
ごめん、ごめん!自分が悪いんです。
話し手が謝っているので、「私が悪いんです。」(I'm bad./That's my fault.) ということですね。
ねえ、なんで怒ってるの?自分が悪いんでしょ?
この場合は "Why are you angry? That's your fault, isn't it?" と話し手が聞き手を責めています。
あなたは私に宿題を手伝わせているけど、これは自分の宿題でしょ?
この文も同様に、話し手がだれの宿題をやっているのかがわかれば、「自分の」が指す人も明らかになります。文脈の理解が大事だというわけです。
でも、日本語には「私自身、あなた自身、彼自身、彼女自身」という単語も存在します。これらは全然使われない訳ではありません。
これは私自身の問題です。(This is my own problem.)
このようにも言えますが、「自分」の方が多用されている気がします。みなさんも知っていると思いますが、日本語では「私、あなた、彼、彼女」のような人称代名詞 (personal pronoun) がもともと使われることが少ないですね。「自分」を指す人がだれにでもなり得ることはこれに関係しているのかもしれません。
鈴木孝夫著書の『ことばと文化』(*1)の中でも現代日本語について「できるだけ会話の中で人称代名詞を使わないで済まそうとする傾向が今でも強いのである。」と書かれています。
みなさんはこれについてどう思いますか。
それから、生徒と話していると、「自分で」と「ひとりで」の混同が多いことにも気がつきます。
私は自分で京都に行った。
生徒がこの文を言うと、言いたいことはわかりますが、なんだか不自然な気がします。きっと "I went to Kyoto alone." と言いたいのかなと思います。それなら、「私は京都にひとりで行った。」ですね。「友だちと行かなかった、私だけだった」と、人数について言いたい場合は、「ひとりで」を使いましょう。
私は自分でホテルに電話をかけて、予約をした。
これなら、正しいです。上の文の場合、「自分で」には「私の力で何かをする」という意味です。日本語で電話をかけて、話すのは難しいことですよね。それを他の人の手伝いなしでできたら、「自分でした!」と自慢できます。
ただ、「こんなにたくさんの料理をひとりで全部作ったの?!」という場合は「あなただけで作った?!」という意味も、「あなたの力だけで作った?!」という意味も含んでいます。「料理を作る」という行為が技術や労力を必要とするものだからでしょう。
それに対して、「京都に行く」は新幹線などの乗り物に乗ればだれでも簡単に行くことができる行為ですね。そのため、「自分で京都に行った」は違和感があるのでしょう。
子どもが「(親の手伝いなしで)ひとりでできる!」と言うのも同様のニュアンスがあります。もちろん「自分でできる」に言い換えることも可能です。
*1 鈴木孝夫、『ことばと文化』、岩波書店、2005年